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19 府中宿(後半)~18 江尻宿    静岡市葵区~静岡市清水区

 200km走ったあの日から二日。実家のベッドの上で目を覚ます。一昨日までの疲れは多少はとれたか。

 天気は晴れており、予報でも雨の降る心配はほとんどないようだ。安心して、用意してくれた朝ご飯を食べる。

 今日はどこまで行けるだろうか。距離・時間を考えて、とりあえずの目標は神奈川県平塚市に設定している。 もう少しいける場合は鎌倉市までで、いけない場合は小田原市まで。 最悪、箱根の芦ノ湖の畔にキャンプ場があるのでそこに宿泊すれば良いだろう。 いずれにしても箱根の峠を越えて、神奈川県に入らなければいけない訳だ。

 荷物を自転車に積み、飲料水を持ち、準備完了。 わずか40時間あまりの間の実家滞在だった。しかし実はそのわずかの間に、想定外の事態が起こった。

 ※ 個人的な話ですので、興味ないという人は読み飛ばしてください

 



 話は前日(08/03)の朝に遡る。重大な問題に気づいたのは、朝ごはんを食べてすぐの事だった。

 昨日ちらかったままにしておいた自転車の荷物を整理する。そのとき、 なんと帰りの東京からの切符を京都の下宿に置き忘れてきたことに気が付いた。

 慢性的金銭不足の大学生にとって、新幹線は高嶺の花。学割を使っても、東京~京都間の移動には新幹線で11000円以上もかかってしまう。 そのため今回の旅の帰りは、東京駅から岐阜県の大垣駅までの臨時夜行快速列車「ムーンライトながら」と、JR在来線普通電車乗り放題の 「青春18きっぷ」を組み合わせて、在来線を乗り継いで帰ることにした。こうすることによって、東京京都間をわずか4000円ちょっとで移動可能になる。 そんな「ムーンライトながら」は当然人気が高く、切符を予約しないと乗ることが出来ない。

 そんな切符を京都に置き忘れてきてしまった。実は、切符を入れていた入れ物と同じ物がもう一つ下宿にあって、 そっちには春休みに使い切った青春18きっぷを入れておいたのだ。間違ってそちらを持ってきてしまった。

 朝の優雅な時間は途端に終わりを告げた。さて、どうしようか。 切符を取りに戻るために新幹線を使うのはいくらなんでも本末転倒だ。18きっぷを使って戻るにしても、 東海道の旅のスタート地点まで戻るのは絶対に嫌だ。あとは、静岡駅に行って駅の窓口でどうすれば良いかを相談する……その位しか思いつかない。

 結局、静岡駅へ行くことにした。到着後、早速窓口へ向かう。乗る予定の電車の席に空きがあれば代わりの席を 予約したかったのだが、当然のごとく満席だったので他の席を代わりに確保するのは無理だった。

 そうなると唯一残された方法は、京都で誰かがその切符を駅の窓口まで持っていってキャンセルして、 その瞬間に自分が静岡駅の窓口でその席を予約する、というものである。なんともトリッキーな方法だが、これしかない。

 下宿の大家さんに連絡をとって、無理を言って家の中に入ってもらって切符が残されたままかどうかを確認してもらう。 その結果、切符は無事にそこにあることが分かったので、大家さんに一時預かってもらう。

 次に、協力をしてくれそうな友人を探す。友人達に一人ひとり連絡を取るが、まだ午前中だということもあり なかなか電話に出る人が現れない。昨日まで試験があって、久々に到来したのんびりとした時間をみんなは睡眠に当てているのだろう。

 ようやく東北出身のとある友人と連絡がついた。彼は、こちらの無理難題なお願いを引き受けてくれた。ありがたい。

 彼に与えた指令(?)は次のようなものだ。まず、自転車で下宿の目の前にある大家さんの家に行き、大家さんから例の切符を受け取る。 それから、最寄りのJRの駅(山陰本線二条駅)に行き、駅の窓口に行く。最後に、携帯電話で連絡を取り合いながら、切符をキャンセルしてもらう。 以上が指令内容である。携帯電話でタイミングをとって、こちらではその切符がキャンセルされた瞬間に確保すれば、今回のミッションは成功となる。

 協力してくれた友人も忙しいので、二条駅に行くという第2ミッションを終えるまで1時間ほどかかるらしい。 忙しい中、自分の手伝いをしてくれるのには本当に感謝だ。

 その間、自分は静岡駅の地下街をうろうろする。すると、思わずストリートミュージシャンの演奏に足を止めた。 ただのストリートミュージシャンなら、自分はわざわざ聴こうとしないが、今回は違った。 演奏している所の隣に、その人の物と思わしき荷物をたくさん積んだロードバイクがあったからである。

 そのお兄さんは、演奏の曲と曲との間に自転車旅のことを語っていた。
 「自転車旅は、自分の力でペダルをこぎ続けなければいけないんですよ。疲れていても、何もしなければ動かない。 そんな中、風を切って進む時の気分がもう何とも言えませんね。だから自転車なんです。自転車でなければダメなんです」

 その言葉に自分の昨日までの旅の思いが重なった。結局ストリートライブが終わるまでずっと演奏を聴いてしまっていた。

 ライブを終えたお兄さん。サインをもらっている人が結構いることから、わりと有名な人のようだ。 人があまりいなくなってから、お兄さんに話しかける。
 「自分は3日前に東京を出てきました。福岡まで行こうかと考えてます。途中でこうやってライブをしていってね」
 「今日はどこからスタートして、どこまで行く予定なんですか?」
 「今日は富士から出発して、掛川まで行く予定なんです」

 それからもう一人、演奏を聴いていた、島田からの自転車乗りも話に加わる。お兄さんがこれから行くことになる宇都ノ谷峠と小夜の中山の話、 そして自分がこれから行くことになる箱根峠の話をして情報を交換し合う。

 そうこうしているうちに、時間が過ぎていった。そろそろお兄さんが出発するそうだ。彼を見送りに行く。旅の無事をお互いに祈る。

 本来の目的の切符の確保にちょうど良い時間になった。連絡すると、二条駅にもうすぐ到着するとのこと。 こちらも静岡駅のみどりの窓口へ戻って列に並ぶ。呼ばれた窓口のところで、係員に今回の事情を説明する。 それから友人に電話をするが、二条駅の窓口が混んでいるらしく、なかなか前に進まないそうだ。 ……いや、実はそうではなく、新人の係員が単純に手間取っているそうだ。 まあこちらは待つしかすることがないので、静岡駅の窓口1つをしばらく占領してまわりに大迷惑をかけつつ待機する。ごめんなさい。

 結局15分ほど占領しっぱなしだったが、たくさんの人の協力のおかげでなんとか目的のものを手にすることができた。 まわりの人には本当に感謝、ありがとうございました。そして、本当にごめんなさい。

 



 

 回想終了。両親に見送られながら、出発する。駿府城公園を通り抜けて、あっという間に静岡駅に到着する。 駅前交差点を左に曲がって、東を目指す。東京まであと181km。

 しばらく行くと、静岡鉄道の静岡清水線の線路が国道1号の隣を通る。電車の本数が多いので、 2両編成の電車を何度も見かける。再開発地域の東静岡駅を過ぎると、やがて葵区から清水区へ入る。

 ずっと片側2車線の道路で、アップダウンもほとんどなくて走りやすい。あっという間に江尻宿へ到着する。


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