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11 三島宿〜10 箱根宿   静岡県三島市〜神奈川県箱根町

 三島宿は江戸時代に、箱根越え直前・直後の休息地として栄えた場所である。 また、池鯉鮒宿のところで述べたような気がするが、東海道三大社の一つの三嶋大社の門前町である。 平治の乱で伊豆に流されていた源頼朝が源氏の再興を祈願した神社としても知られる。

 そんな三嶋大社へ到着する。時間もあるので、せっかくだし参拝することにした。 有料の自動車の駐車場のところに自転車を無料で止めさせてもらう。日曜日だからか、観光客が神社周辺にたくさんいた。 まあ、自分も広義の意味の観光客ではあるが。本殿に行き、無事に旅を終えられるように祈願する。

 ここから相模国(神奈川県)に抜ける方法は、主に三つ。一つは、旧東海道・国道1号に沿って行く箱根越えのルート。 それから、御殿場線・東名高速道路に沿う、御殿場周りのルート。後の一つは、現在の東海道本線沿いの熱海・湯河原といった 温泉リゾート地を抜けるルートだ。いずれにしても山道を進まねばならない。もちろん今回は、箱根越えのルートを選択する。

 ここ三島できっちりと用意をしないと命にかかわるので、しっかりと準備をすることに。 ただ、高架の道路や伊豆箱根鉄道の線路などがあり、思ったように道路を進むことができず、もどかしさを覚えた。 信号にもよく引っかかる。なぜだ。

 まず、少し遅い(午後2時過ぎ)昼食をコストパフォーマンスが良い某牛丼屋で済ませる。 牛丼ももちろん疲れた体にはうれしいが、味噌汁の塩辛さは最高だ。 それから、飲料水と行動食をコンビニで買って、準備を整える。 この時一応、コンビニの店員に箱根峠まで自転車でどれくらいかかるのかを聞いてみた。

 「今から行ったら夜になるんじゃないかねぇ……」
……聞かなければ良かったかもしれない。まあここまで400km近い距離を走ってきたのだし、 多分暗くなる前には上り切ることができるだろう。

 三嶋大社まで一度戻り、国道1号に出る。東海道本線の線路を越えたあたりに案内標識が。 東京まであと121km。そして、箱根までは14km、山向こうの小田原まで35km。時は来た。 いよいよ、今回の東海道五十三次自転車旅の最大の難所、箱根越えに挑戦を開始する。

 まず、初音ヶ原の松並木と呼ばれる松並木に沿ってスピードを落としつつ進んでいく。 左手にはずっと、右手には時々松並木がある。ちゃんと土を盛り上げてあるのが良い雰囲気だ。 また、歩道は石畳となっており、箱根を越えてきたと思われるハイカーを数名見かけた。

 そこを過ぎると、最近できたばっかりの伊豆縦貫自動車道の入り口の交差点に出る。信号が変わるのを待つ。 そこを過ぎると、いよいよ本格的な上り坂となる。ここで東海道の旧道に分かれる道がある。 昔は旧道の石畳を通って行ったのだが、自転車で峠に近いほうの山道を行けるはずもない。ここは、国道1号に沿って進む。

 箱根の上り坂はそんなに急ではないが、上り坂がずーっと続くのでつらい。時刻は午後3時半。 気温が35度を超える猛暑日で、太陽が背中から照らし続けている中、ひたすら上っていく。 車の事故が多い道路なので、「スピードおとせ」の看板が見られる。 自転車にとってはそんなこと言われなくてもスピードが出ないので、ご安心を。

 あと12km、10km、……案内標識と自転車のスピードメーターの距離が縮まるのは遅い。 途中にあった商店で一度休憩を入れる。商店のオバチャンは箱根越えの自転車乗りには慣れているのだろう、 淡々とした様子だった。

 休憩後、足が重いけれどもまた出発。箱根旧街道の看板の文字を何度か見かけるが、そっちの斜度は国道1号と比べ物にならないほどキツい。 頑張って国道1号を進んでいく。

 途中に松尾芭蕉の俳句の碑があった。そこから1kmくらい上ると、北条氏の建てた山中城跡がある。 この城は、豊臣秀吉が小田原を攻めた時に滅ぼされてしまった。現在、城郭がよく保存されており、 日本百名城にも数えられている。そこでまた休憩。 上り始めて1時間ほど。ここまでで半分を少し超えたあたりなので、あと1時間あればおそらく箱根峠にたどり着けるだろう。

 やがて、函南町に入る。国道1号を通るコースでは、最後の静岡県の町だ。箱根の別名、函嶺の南という由来の通りの名前だ。 静岡県は東西に長い。西端の湖西市から150kmも離れているのだ。峠まであと4km。休み休みながらも、とにかく進む。

 あまりにもゆっくり車道を走っていると車の迷惑なので歩道を行こうとしたが、 上るにつれて歩道はだんだん草木で覆われるようになって、最後にはとても自転車で走れる状態ではなくなった。 仕方ないので、時々通る車の邪魔になるべくならないようにして走ることに。今は集中を一瞬でも気を緩めてはいけないところだ。

 キツいカーブをいくつも過ぎていくと、やがて道の駅箱根峠まであと2kmという看板が出てきた。 箱根峠の先に、道の駅があるのだ。つまり、上りはあと1kmほどということになる。最後の力を振り絞って上る。

 視界が開けた。標高846m、箱根峠に到着した。ここまで三島から2時間弱。つい数時間前まで海岸沿いの千本松原にいたのだから、 ほぼ海抜0mから上ってきたのだ。長かったが、やっとここまで来た。本当に感慨深い。そんな気持ちで、神奈川県(相模国)に入る。 関東突入だ。

 ここで8割方箱根を越えたことになる。あと少しの試練としては、一度芦ノ湖の畔まで降りた後に、 国道1号の最高地点まで再び上るというものが残っているが、まああとは気合でなんとかなりそうなので、今は下りを楽しむ。 芦ノ湖の景色が本当に綺麗である。

 車専用の国道1号箱根新道に入らないように気を付けて進む。下りは速い。あっという間に湖畔まで来た。箱根宿のあった場所である。


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