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08 大磯宿〜07 平塚宿(前半)    神奈川県大磯町〜神奈川県平塚市

 大磯での見どころは日本三大俳諧道場の一つ、鴫立庵(しぎたつあん)だ。 鎌倉時代の西行法師がこの地を詠んだり、湘南の名の誕生の場所だったりする。

 場所は大磯町役場のすぐ近くなので、目印の町役場の看板を探す。 どちらもほぼ国道1号沿いなので、見逃しはしないはず。 しかし、なかなか看板が見つからない。 昼頃沼津市の原で引き返したことを思い出し、暗くて気づかずに通り過ぎてしまったのではないかと思うようになった。

 念のため松並木が中央分離帯になっている所で地元の人に尋ねて確認すると、まだ過ぎていないことが分かった。 この道を行けば、あと1kmもないらしい。きっちりと地図を見て、念には念を入れてスマートフォンでも場所を確認する。

 余談だがこの時、スマホには大学の同じクラスの友人からコンパの写真付きのメールが届いていた。 そういえば今日はクラスのメンバーでコンパをすると聞いていた。 自分の場合テストは4日前までだったが、一昨日までテスト期間だったので一昨日までテストに 追われていた人もいたに違いない。始まったばかりの夏休みをみんな楽しんでいるようだった。 もちろん自分もこうして楽しんでいる訳だが。

 大磯町役場までやってきた。鴫立庵はそろそろのはずだが、見つからない。 ほんの少し走ったところでまたスマホで確認する。 ……あれ? おかしいな。わずかの距離を走った間に通り過ぎてしまったようだ。

 困っていると、白いエプロンをつけたコックが道の脇にいる。目の前の店がトンカツ屋のようで、 多分そこの料理人だろう。その人にうかがう(この時、読み方が『しぎたつあん』で合っているのか確信がなかった)。

 「すみません、鴫立庵(しぎたつあん)……読みはこれで良いですかね?どこにありますか?」
 「ああ、読みは合ってるよ。ここの隣が鴫立庵だ」

 あ、確かに戻ってきた反対車線のほうには看板がある。それなら道の両側に看板をつけて欲しいものだ。

 「珍しいな、鴫立庵をわざわざ探しているなんて。どうしてそんなところを探しているんだい?」
 「東海道の宿場町を一つ一つまわっているんですよ。で、ここ大磯宿は鴫立庵に寄ることにしたんです」
 「どっから来たんだ?」
 「京都からです。今日は平塚に泊まって、明日東京の日本橋まで行く予定です。」
 「おお、大変だな」

 オジサンにお礼を言って、目の前の鴫立庵に行く。自転車を歩道に止めて、少し敷地に入ってみる。 真っ暗だったが、古い家屋、俳諧道場がある。 入り口の石橋や碑の解説文に目をやる。真っ暗で足元が見えないので、奥までは進まなかった。

 自転車のおいてある所に戻って出発しようとすると、さっきの料理人のオジサンが。
 「何かの縁だ。持って行きな」
 業務用と書かれた、四角い紙パックの1リットル入りアイスコーヒーを下さった。ありがたく頂戴し、お礼を言う。
 「怪我だけはしないようにしろよ。親が悲しむからな」
 そうオジサンは言い、去って行った。そういえば親はこの旅に対して何も言わないが、内心心配しているのだろう。 それを忘れないように心掛けたい。

 もらったコーヒーを荷台に紐でくくりつけてから、大磯を出発する。 この先にある川を渡れば、そこはもう平塚宿だ。距離にして3kmほど。

 川を渡った先にある大磯町・平塚市の境界になっている交差点のところには、 平塚宿京方見附之跡の木製の碑、そして石でできた東海道平塚宿という立派な碑もあった。

 今日は、平塚駅前の健康ランドに宿泊する。 通りがかりの中国人が経営するラーメン屋で夕食を済ませた後、迷いながらもなんとか健康ランドに到着。

 何だかんだで今日は150km近く走った。思えば京都から随分と遠くまで来たものだ。 予定ではいよいよ明日は東京日本橋にゴール。最後までたどり着けますように……。


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